文:CAMP HACK編集部
アウトドアの当たり前、ギアはなくても楽しめるのかな?
みなさん、キャンプでは何が楽しみですか? 火を起こすこと、テントを設営すること、調理をすること……。キャンパーによってさまざまな楽しみ方があると思いますが、そこには必ず便利なキャンプ道具が関わってきます。
しかし今のようにキャンプギアがなかった時代は、アウトドアとどのように付き合っていたのでしょうか? そんな疑問を抱いた編集部員ロッシがある文化に注目しました。
自然とともに暮らしてきた人たちがいる
編集部員ロッシはキャンパーであると同時にマンガやアニメが大好き。『ゴールデンカムイ』(集英社)を読んでいたときに、アイヌの生活スタイルや歴史に強く興味を持ちました。
アイヌの歴史・文化を学びに行ってみた!
そう考えたロッシは北海道にひとっ飛び! 訪れたのは、アイヌの歴史と文化を伝える国立施設「ウポポイ 民族共生象徴空間」です。
ウポポイとは?
「国立アイヌ民族博物館」、「国立民族共生公園」、「慰霊施設」からなる先住民族アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターです。 アイヌ文化の復興・発展の拠点として、また、人々が互いに尊重し共生する差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴となる空間として整備されました。かやぶきのチセ(家屋)や大充実の博物館など見どころたっぷりで、工芸や楽器の演奏、調理といった体験プログラムも豊富。修学旅行生に人気のスポットにもなっています。
アイヌ文化を教えてくれるのは、ウポポイの堀江さん!
ロッシにアイヌ文化を教えてくれるのは、ウポポイで「コタンの樹木案内」の体験プログラムや、「クチャ解説」を担当している堀江さん。 アイヌの暮らしの中で伝承されてきた樹木の特徴や利用法(繊維に加工する、燃えやすいなど)をプログラム参加者に解説しています。アイヌ語の公用語化を目指す取り組みとしてスタッフには「ポンレ」というニックネームがあります。堀江さんのポンレはニトゥレンといって、「木に守られる」という意味をもちます。ちなみに堀江さん自身もキャンパーであり、キャンプツーリングで北海道を一周したこともあるそうです。
「ウポポイ体験プログラムスタッフ」が教えてくれる充実の体験プログラムはこちら
アイヌ文化について伺うことで、アウトドアとの関連性がわかるかもしれない!ということで早速、堀江さんに聞いてきました!
アイヌ文化とリンクする?アウトドアのあれこれ
燃えやすい樹木「チキサニ(ハルニレ)」
まずはキャンプに欠かせない「火」について話を聞いてみました。暖を取ったり灯りを得たりと、多くのキャンパーが活用している焚き火。アイヌの文化ではどのような役割があるのでしょうか?
※プログラム以外の時間には炭が用いられています。
ウポポイの一角には、かやぶきのチセ(家屋)があり、体験プログラム「コタンの樹木案内」では、チキサニ(ハルニレ)などの樹木について、特徴や利用法を学ぶことができます。
チキサニ(ハルニレ)はアイヌに伝わる物語の中で姫として登場します。
チキサニ姫は雷のカムイの子どもを生みます。チキサニの枝先は風当たりが強く子育てが難しいため、子どもに自分の皮で作った着物と、抜くと燃える剣をあげて、カムイの世界で子どもを育ててもらいます。
やがて大きくなったその子は地上に降りてきてアイヌに生活の仕方を教えてくれました。
この物語では、チキサニの皮の繊維で着物を作ることや、燃えること、また植物としての特徴である枝先が細いことも描かれています。
そもそもカムイとは?
カムイとは自然現象や動植物、道具も含めて人の周りにあり重要な働きや強い影響を与えるもののことで、カムイの国では人と同じように暮らしています。
さて、本題のチキサニ(ハルニレ)をくべてもらいましょう。
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炭の上に乗せると、すぐにパチパチと音が鳴って燃え始めました。その発火スピードはまるで着火剤。今回は多少乾燥させた状態ではありましたが、数秒で発火し「さすがはアイヌの知恵!」と唸るものがありました。
火のカムイは人のそばにいてあかりを灯し、料理の手助けや、カムイたちへ人間の言葉を伝える役割を果たすもっとも身近なカムイなのだそう。
「チキサニ(ハルニレ)は暮らしに欠かせない火を生み出してくれるカムイである」これは覚えておきたいですね。
暮らしの豆知識〜暖を効率よくとる方法とは?〜
アイヌの文化では、炎で暖を取るときに効率よく体を暖める方法も伝えられてきました。それは「セトゥㇽセセッカ(背中を温める)」という言葉で、火に背中を向けて暖まる(せなかあぶりする)というもの。
確かに冬キャンプでは、チェアに防寒対策を施して背中を暖めますよね。暖を取るときは背中が大事、これも覚えておきたい知識です。
自然素材のテント?「クチャ」とは?
次にテントの話を聞いてみましょう。アイヌ文化では、狩猟の際にテントのような狩小屋を建てて、数日間滞在することがあったそうです。
ウポポイに設置されているクチャ(狩小屋)の材料
骨組み材
3.5m×3本、2.7m×10本程度。いずれも太さは6~7cm程度。
骨組み支点用の紐
太さ0.1m、長さ2.0m程度
※ウポポイではシナノキの繊維で作った紐を使用
被覆材
面積2.0㎡くらいのトドマツの枝葉(先が丸まらず、まっすぐ広がっているもの)約30本
※撮影時は冬季のためトドマツを使用。季節や場所によって使う植物は異なる。
「作り方を知りたい!」と熱望するロッシのため、特別に実際に建てる様子を見せてもらえることに。今回はフィールドチームのお二人でクチャ(狩小屋)作りスタート!
次項の作り方詳細がわかれば、本当にブッシュクラフトでクチャ(狩小屋)が作れそうです。材料さえ手に入れば意外と簡単にできちゃうかも?
ステップ1:「ケトゥンニ(三脚)」を立てる
まずは、メインの柱となるケトゥンニ(三脚)を立てます。
三脚の支点を固定するため、輪を紐で作ります。輪は、この幹と紐の太さであれば、握りこぶし1つ分くらいの余裕を持たせて大きさを決めたら、余りの紐を輪に巻きつけるようにして作ります。
シナノキの繊維から作った紐はほどけにくく、また、縛らないため微調整も、再利用もできます。
その輪に3本の幹を通し、その真ん中の1本をくるりと回転させれば……。 | ![]() |
クチャ(狩小屋)のケトゥンニ(三脚)が完成しました。ケトゥンニは非常に頑丈で、前出のチセ(家屋)の屋根の基本構造にも使われているんだとか。 | ![]() |
ステップ2:ケトゥンニ(三脚)に幹をかけて骨組みを強化
つづいて2.7mの幹を10本程度立てかけ、骨組みにします。のちほど枝葉を引っ掛けるためにも必要に。また入口は風下に向けます。
ステップ3:炉鉤を吊るす
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骨組みが完成した段階で、中心に炉鉤(ろかぎ)を吊るしました。冬場の狩りでは火で暖を取りつつ、鍋を吊るして煮炊きが可能に。
ステップ4:枝葉でコーティング
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トドマツの枝葉同士の肩を組むよう絡めながらかけていきます。隙間がないように、下から上へとかけていくのがポイント。 | ![]() |
高いところは先が二又になった気を使って骨組みにかけていました。
ついに完成! 隙間なく作ることができ、これなら風雪もしのげますね。せっかくなので中に入ってみましょう!
内部に入って寝転んでみました。今回のクチャ(狩小屋)は、大人1人が寝るのにはゆったりとした大きさ。火を囲んで2~3人で過ごすこともできそうでした。
クチャ(狩小屋)の構造の秘密はこちらのプログラムでチェック!
アイヌの文化や知識、伝統をもっと知りたい
アイヌは自然とともに生きてきた民族。身近な植物を活かした生活は、アウトドアで役立つ要素もたくさん詰まっています。アイヌ文化を知れば自然を深く知ることができ、同時に自然への愛着も強くなるでしょう。最後に堀江さんの印象的な言葉をお伝えします。
植物にまつわるアイヌの物語を聞いてから森のなかを歩いてみると、景色が違って見えますよ。ひとつひとつの植物はカムイで、物語中のカムイとしての暮らしぶりを思い浮かべると親近感が湧きますし、また植物の特徴をより深く知ることができます
今回の記事では紹介しきれないほど、樹木の利用法や特徴、物語といった暮らしとのつながりを紹介してくれた堀江さんでした。
他にもアイヌの生活スタイルや歴史が学べる体験ができるぞ!
提供:公益財団法人 アイヌ民族文化財団
ウポポイでは「コタンの樹木案内」や「クチャ解説」以外にも、たくさんのプログラムを実施しています。アイヌの工芸や料理、歌や踊りなど興味深い内容が盛りだくさん!自然と共存する文化に感心すること間違いありません。 興味を持った方はぜひ訪れてみてくださいね。季節によって移り変わる景観も見応えがありますよ。
文:CAMP HACK編集部 Sponsored by 公益財団法人アイヌ民族文化財団