ウポポイマガジン

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ウポポイ民族共生象徴空間

© アイヌ民族文化財団

27.

アイヌ文化にマナブ

本上まなみさん「情報が溢れる現代は、 読んだだけでわかったつもりになる」 ウポポイで知った、体で世界を学ぶ意味

「映像を見たり、本を読んだりするのとは違う」アイヌ文化に以前から関心があったという本上まなみさんが、ウポポイを訪れて感じたこと 俳優・エッセイストで、アイヌ文化に以前から関心をもつ本上まなみさんが、北海道白老町にあるウポポイ(民族共生象徴空間)を訪れました。 アイヌ文化を肌で感じられるウポポイ。そこで、本上さんが考えたこととは?

俳優・エッセイストの本上まなみさん。適切な社会的距離をとり、感染対策をおこなった上で、撮影中のみ特別にマスクを外していますPhoto 榎本大樹

ウポポイ(民族共生象徴空間)

アイヌ文化の復興・創造のための拠点として2020年に北海道白老町にオープンした。「国立アイヌ民族博物館」「国立民族共生公園」「慰霊施設」の3施設からなる。将来に向けて先住民族の尊厳を尊重し、多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築くことを目指している。画像出典:(公財)アイヌ民族文化財団

物語からアイヌ文化に関心

本上さんは、アイヌ文化に以前から興味があったと伺いました。

母が旅好きだった影響もあって、昔から北海道は大好きな場所です。

だから、北海道ではアイヌの人々が暮らしていることも、子どもの頃から知っていたんです。特に、アイヌの伝承に出てくる“コㇿポックㇽ”などの物語に興味を持っていました。

大人になって、海外にもそういった物語が数多くあることに気づきました。主人公の声の吹き替えを務めた、アイルランドのアニメーション映画『ソング・オブ・シー 海のうた』もそのひとつです。映画の元となったのが、アイルランドに古くから伝わる神話で、人間とアザラシが結婚して子どもが生まれるお話なんですね。神秘的な世界観に心を奪われ、様々な物語にさらに関心を持つようになりました。

アイヌの物語も、動物と人間が同じ土壌でフラットに暮らし、さらに神とも交流、時には交渉などもする場面が出てきます。私たちも神を大切に扱うから、神も私たちを大切にするべきだというような。考え方がすごく面白いなと。

Photo 榎本大樹

今もアイヌの物語を読まれているんですよね。

萱野茂さんが書かれた、『アイヌと神々の物語』が好きです。アイヌのルーツを持つ萱野さんが祖母や村のお年寄りから聞いた話をまとめたもので、エピソードの一つ一つに、生活の知恵や、先祖の教えが織り交ぜられています。

印象的なのは「食べ物に困らず、幸せに何不自由なく暮らしている」というようなフレーズが何回も出てくること。過酷な環境だからこそ、一番の幸せは食べ物に困らないことなのだろうということが伺えます。

現代の私たちは、お金を出せば他人がつくった食べ物や衣服が手に入る環境で暮らしています。

一方で、昔のアイヌの人は、自分たちの腕一本で命を繋いできた。その誇りや、生き方が物語の中に散りばめられているんですね。「生きるって、死ぬって、こういうことなんだろうな」という死生観みたいなものが感じられ、とても興味深いです。

ウポポイでの体験は、映像や本とは違う

国立アイヌ民族博物館でアイヌ文化を学ぶ様子Photo 榎本大樹

ウポポイでアイヌ文化を実際に体験していかがでしたか?

体験交流ホールで、ムックリという楽器が風の音を奏でるのを聞いたとき、強く激しくなっていく音に反応して胸がどきどきしました。自分で見て、聞いて、体を動かしてみると、リズムというか、躍動感みたいなものがダイレクトに入ってくる感覚があるんですね。

アイヌ文化は、文字ではなく、口伝や踊りによって、歴史や知識を次の世代に伝えてきたからでしょうか。アイヌ語は私にはわからないけれど、体験してみると、さまざまなメッセージが受け取れたような気がしたのが不思議です。映像を見たり、本を読んだりするのとは違い、五感で感じるからでしょうか。

ウポポイスタッフに教わりながら、アイヌ文様の刺繍を体験Photo 榎本大樹

体験して知ることの価値があると。

そうですね。昔のアイヌの子どもたちは、親の横で、刺繍の文様を見て学んで、そして囲炉裏の灰に自分で文様を描いて覚えた。狩りの技術も、遊びの中に狩りの動きを取り入れることで学んだと伺いました。

色々な情報が溢れている現代は、何かを見たり読んだりしただけでわかったつもりになることが多いと思います。でも、実際やってみないと身につかない、自分のものにならないことがほとんど。私自身、スピード重視で失敗し、反省することがしばしばあります。

実は、今回は2回目のウポポイ訪問で、初めは家族旅行で子どもと一緒に来たんです。共にアイヌ文化を体験することで、体を動かして学ぶ大事さを改めて理解できましたし、これからも大切にしていきたいと思いました。

完成したアイヌ文様の刺繍。今回はコースターに刺繍をしたPhoto 榎本大樹

今回はEXILE ÜSAさんとウポポイを巡っていただきました。何か気づきはありましたか?

ウポポイの皆さんと一緒に輪になって踊りました(*)が、ÜSAさんは全身で皆さんと呼応しあっているというか、会話をしているようでした。私はただポーズを真似していただけでしたが、ÜSAさんは踊りに込められているメッセージをダイレクトに感じられていたんだろうなというように見受けられました。

EXILE ÜSAさんとともに、本上さんもアイヌの舞踊「イヨマンテ リㇺセ(熊の霊送りの踊り)」を体験Photo 榎本大樹

アイヌ民族の感覚は、これから大事になるかもしれない

アイヌ文化は、自然と共生しているところも大きな特徴のひとつです。

その考え方に深く共感します。人間も「自然の一部」だという感覚はとても大切だと感じています。自然は優しいだけではなく、厳しさもありますが、それにどう適応し、どう工夫して暮らしていくかということはもっと考えていくべきでしょう。

10年ほど前に東京から京都に引っ越したのも、子どもが自然と向き合う時間を増やしたいという思いもあったからです。京都市は街ですが、自然が豊かで、夜は真っ暗になります。闇の怖さは、それこそ肌感覚じゃないとわからないものなので、ぜひ小さいうちに知って欲しかった。私は子どもの頃、山奥でキャンプした経験などがあって、夜は真っ暗で、自分の手すら見えないことを知っていました。でも、自分の子どもは、夜も明るい街で暮らしていたので、その感覚がピンときていないんですよね。

アイヌ文化の体験やさまざまなプログラムがおこなわれるチセ(家屋)Photo 榎本大樹

自然の怖さも含めて、自然と生きる感覚が大事なんですね。

アイヌの人たちだけでなく、昔の人たちはみな仲間や家族で助け合い、自分たちで食料を得て生きてきたんですよね。私は、仕事をしてその対価をいただいていますが、自分たちで自分の食料を調達する感覚を絶対忘れちゃいけないんです。

日本は食料自給率の問題もあるし、世界情勢もこれからどうなるかわからない。このままでいいのかなとずっと感じています。

アイヌの方々が守り受け継いでこられた自然とともに生きるという考え方には、環境に負担をかけないためのお手本がたくさんつまっているのではないかと思っています。

独特の美意識に創作意欲が掻き立てられる

アイヌのものづくりは現代にどう生きると思いますか?

刺繍のデザインひとつをとっても、これまで触れたことがない文様で、新鮮に感じました。今日もたくさんの衣服を見せていただきましたが、色の合わせ方や、刺繍の入り方、そして裏地まで美しい。クリエイターの皆さんも、独特の美意識にきっと創作意欲を掻き立てられると思います。

工房では、衣服の素材となる木の皮に触れられるPhoto 榎本大樹

アイヌの工芸品や衣服は、自然の素材の活用も上手です。

京都では今、シカが増えていて、その対策が進んでいます。廃棄せず、食材や革製品などに活用する動きが少しずつ始まっているんですね。

アイヌ文化には、自然をうまく利用して、サステナブルに使い繋いでいく技術があるので、学ぶべきところはたくさんあります。例えば、今回は鮭皮のブーツを見ましたが、鮭の皮は丈夫で、水も弾くと聞きました。また別の製品に転用できる可能性を秘めていそうですよね。

これからウポポイを訪れる人へメッセージを。

子どもを連れてきたときも、色々な遊びを体験したり、音楽を聴いたり、舞踊を見たりして、とても楽しんでいました。また、悲しく辛いことですが、尊厳を傷つけられるような歴史があったことも、こちらの博物館では紹介されています。知る、学ぶことはとても重要だと思いました。

世代を問わず、ひとりひとりに「これは面白い」というものが見つけられる豊かな施設です。ぜひ皆さんも足を運んで体験していただきたいです。私もまた機会を改めて訪れたいと思います。

国立アイヌ民族博物館の展示品を見学。1日かけて、じっくりアイヌ文化を学んだPhoto 榎本大樹

豊かな自然とともに、アイヌのたくさんの物語、衣服、工芸品を体で知ることができる北海道・白老町の「ウポポイ」(*2)。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

ウポポイ(民族共生象徴空間)

開園時間及び閉園日はこちら
住所:北海道白老郡白老町若草町2丁目3
公式サイトはこちら

*「踊りの体験」は現在、コロナ禍のため実施していません。
*2 体験プログラムは、季節や新型コロナウイルスの感染状況によって変わります。詳しくは、公式サイトをご覧ください。

(撮影:榎本大樹、衣装提供:プレインピープル、取材・文:Murai)

sponsor 記事:ハフポスト日本版より転載 写真:榎本大樹

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